暗号の歴史、その仕組みと解き方【暗号解読(上)】(1冊目)
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『暗号解読(上)』
サイモン シン著、青木薫訳
新潮社 2007/6/28 発行
本書を特にオススメしたい人
- 暗号自体や『エニグマ』に興味がある方
- 暗号を自分で作成してみたい方
- 雑学が好きな方
- 埋蔵金などにロマンを感じる方
目次
- はじめに(本書の紹介)
- 読んで思った本書のポイント
1, 暗号の歴史≒進化
2, 情報を隠すにはどうすれば良いか
3, 第2次世界大戦の鍵、『エニグマ』
4, アメリカにもあった埋蔵金伝説 - まとめ
はじめに(本書の紹介)
『暗号』という言葉を聞いて何を思い浮かべますか?
難しそう、自分には関係ないといったイメージや、小説やマンガの中でしか使わない無駄知識としか思えませんか?
確かに暗号は某少年探偵やミステリー小説などでおなじみの単語ですが、暗号はフィクションではありません。
古代から政治や軍事に利用され、時には歴史を大きく左右してきた重要な『技術』なのです。
その歴史は作成者と解読者の戦いの歴史でもあり、戦いの中で関連した技術も発達してきたのです。
そして現代こそ最も多くの人間が暗号の恩恵を受けている時代であり、もはや暗号は無くてはならない生活の一部となっています。
本書では古代から第2次世界大戦までの暗号の歴史とその仕組みを、暗号の知識がまるで無かった私でも読み解くことができるレベルで解説しています。
読んだ後では簡単な暗号を作成できるほど暗号に関する知識が深まる、そんな1冊です。
読んで思った本書のポイント
1, 暗号の歴史≒進化
暗号の発展史には、”進化”という言葉がぴったりとあてはまる。それというのも暗号の発展過程は、一種の生存競争と見ることができるからだ。
暗号解読(上)サイモン シン著、青木薫訳 12P
そもそも暗号は何故生まれ、使われてきたのでしょう?
それは『情報を隠したい、また必要な人間のみに伝えたい』からです。
権力者や国からすれば情報が漏れ出ることは自身の破滅につながるため、情報を守る技術である暗号が考案されたのです。
しかし『守る側(暗号作成者)』がいるならば、考案された暗号を解読しようと『狙う側(暗号解読者)』も現れます。
著者はこの解読者と作成者の争いを生存競争に例えており、生まれた新たな暗号は『環境に適応した姿』つまり『進化』という言葉が当てはまる、としています。
本書ではこの『進化』をいくつかの歴史的な出来事と絡めて解説していますが、注目すべきは作成者よりも解読者の知恵と知識、そして発想ではないか思います。
というのも今ならばコンピューターの発展により1秒間で膨大な数の解答案を試すことができますが、本書で紹介・解説されている暗号の大半が現役だった時代ではそうもいきません。
解読者たちはキーボードの代わりにペンを持ち、ディスプレイではなく紙と相対し、プログラムではなく自らの知識と発想を頼りに暗号を解いていたのですから、その苦労は推して知るべし、です。
2, 情報を隠すにはどうすれば良いか
本書では情報を隠すための方法として以下のタイプを挙げています。
- 存在そのものを隠す『ステガノグラフィー』
- 存在はそのままに内容を隠す『クリプトグラフィー(暗号)』
・転置式暗号(順序を入れ替える=アナグラム)
・換字式暗号(別の文字に置き換える)
それぞれの例を挙げると…
・ステガノグラフィー:あぶり出し
・アナグラム:Tom Marvolo Riddle ⇒ I am Lord Voldemort
・換字式:code ⇒ dpef(一つ次のアルファベットに置き換え)
と、なります。
本書ではタイトルの通り『暗号』、その中でも『換字式』をメインに解説していますが、この暗号の解説部分こそ私が推したい1つ目のポイントです。
というのも、取り上げられている暗号一つ一つに対して
- 暗号の成り立ち
- 暗号の仕組み、どういったルールで作られるのか
- その具体例
- 解読方法とその回答
といったように段階を踏みながら、時には図も使って丁寧に解説を行っているのです。
また、古代の暗号から順に解説していますので、一気に近代レベルの複雑な暗号が出てくる心配もありません。
徐々に読者の理解レベルを上げながら、歴史を辿っていくためか暗号の知識が全く無かった私でも、内容がスラスラと頭に入ってくるのです。
冒頭で『暗号を自分で作成したい方』にオススメしたいと言ったのはこのためです。
実際に本書を参考にすることでいくつかの転置式・換字式暗号を作成することが可能でしょうし、プログラムやマクロを組むことが得意な方ならば、より複雑な暗号を作成することも出来るでしょう。
3, 第2次世界大戦の鍵、『エニグマ』
傍受したメッセージを解読するには、エニグマ機のレプリカだけでなく、傍受したメッセージを暗号化するときに使われた鍵を、百万の十億倍もある可能性の中から突き止めなければならないのである。
暗号解読(上)サイモン シン著、青木薫訳 262P
さて、『エニグマ(enigma)』といった単語を聞いたことはあるでしょうか?
エニグマ(enigma)とは『謎』を意味する単語ですが、一方で過去にドイツが使用していた暗号作成機のことも意味していてます。
本書ではこのエニグマについても進化の歴史から機械の内部構造、解読法まで詳しく解説していますが、ここが2つ目のオススメポイントです。
解説されているエニグマの複雑さも注目すべき部分ですが、私としては解読者たちの戦いを推したいところです。
暗号には元の文章を変化させたルールが=鍵があります。
一度ルールを特定してしまえば同じ系統の暗号は楽に解読することが出来るのですが、エニグマはこのルールを毎日変更することで同じ文面であっても内容を変えることが可能となっているのです。
しかもルールが変わるまではたったの24時間、その限られた時間内で膨大な量の暗号を解読する必要があるのです。
24時間後には最初からやり直し、まさに賽の河原の石積。
私ならば途中で投げ出す自信があります。
結果としてはポーランドのマリヤン・レイェフスキら、イギリスのアラン・チューリングらの活躍によってエニグマは完全解読されることになります。
彼らは自身で発案した機械を用いて解読を試みましたが、『解読に機械を用いたこと』と『エニグマを打ち破った』この2点が歴史の分岐点となったことは間違いないでしょう。
仮にここで解読者たちが負けていたならば、第2次世界大戦の流れは変わっていたかもしれません。
4, アメリカにもあった埋蔵金伝説
その実話、”ビール暗号”の一件は、開拓時代のアメリカ西部への冒険旅行、莫大な財産をため込んだカウボーイ、埋蔵された二千万ドル相当の宝、そしてその宝のありかを示す謎の暗号文をめぐる物語である。
暗号解読(上)サイモン シン著、青木薫訳 161P
日本人ならば恐らく一度は聞いたことがある『埋蔵金伝説』。
私は本書を読むまで知りませんでしたが、実はアメリカにも似たような話があることをご存じでしたか?
日本では明確なヒントが無い場合が多い気がしますが、本書で紹介されている『ビール暗号』は現在でもヒント(暗号文)が残っており、一部は解読されていることが最大の特徴かと思います。
そもそもビール暗号は次の文書から成り立っています。
- 1枚目は宝の隠し場所
- 2枚目は宝の内容
- 3枚目は分け前を受け取るべき人物
全てでたらめな暗号ならば与太話だったのでしょうが、2枚目が解読されたことから真実味を帯びたのです。
しかし暗号が公表されてから既に100年以上経過していますが、未だに1枚目と3枚目は解読されていません。
もしこの暗号を解読することが出来たならば数十億円相当の宝が得られるらしいので、非常にロマンを感じますね。
まとめ
本書は暗号の歴史とその仕組みを丹念に解説しており、予備知識が無くとも最後まで読み解くことが出来る1冊です。
更に古代の暗号からエニグマまで一連の進化を取り上げるだけではなく、その進化の裏にあった作成者と解読者の戦いも解説しています。
この作成者と解読者の戦いにおいて『どういった発想でそこにたどり着いたか』が分かりやすく示されている点も本書の読みやすさに繋がっていることは間違いないでしょう。
これらから、暗号に興味はある方や暗号を作ってみたい方だけではなく、一般ではあまり知られていない知識を得たい方にもオススメです。
本書を手に取る機会があれば『自分ならばどうやってこの暗号を解くか』、『解読するための鍵は何か』といったことを考えながら読んでいくことで本書の魅力は倍増することでしょう。
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