名将ハンニバルを取り巻く世界とその生涯【ハンニバル 地中海世界の覇権をかけて】(15冊目)

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ハンニバル 地中海世界の覇権をかけて
長谷川博隆(著)
講談社 2005/8/10 第一刷発行

本書を特にオススメしたい人

  • 古代ローマやそれを取り巻く周囲の歴史が好きな方
  • ハンニバルという人物の歴史、軌跡に興味がある方
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目次

はじめに(本書の紹介)

ハンニバル・バルカ。

世界史を習ったことがある方ならば1度は耳にしたことがあるかもしれません。

ローマ相手に連戦連勝を重ねてあと一歩の所まで追い詰めたとされる人物であり、その際の『アルプス越え』は有名な逸話です。

また紀元前の人物ですが、非常に優れた戦術家でもあり、今でもその戦術が参考にされるほどの軍人でもあります。

ですが恐らくハンニバルの名を知っている人の大多数は、上記の様な『アルプス越え』『ローマを追い詰めた男』『優れた戦術家』といった点だけを知っている事でしょう。

かの偉人がどのような生涯を経たのか。

また当時のローマやカルタゴ(ハンニバルの祖国)を取り巻く環境はどうだったのか。

世界史では触れることの無い情報を知っている方は僅かだと思います。

本書はハンニバルの生涯だけでなく、その周囲を取り巻く環境や情勢も解説しています。

彼の祖国であるカルタゴや、父であるハミルカルにその家系といったハンニバルの背景。

ローマに攻め込んだ際の経路、幾つかの戦術、イタリア半島での戦いの趨勢といった壮年期の軌跡。

カルタゴへ帰還してから没するまでの生涯。

稀代の戦術家、ハンニバルの生涯を追った”ハンニバル史”とも言える一冊です。

但し小あくまでも客観的にハンニバルの生涯を追った内容ですので、小説ではありません。

また、戦術一辺倒の内容でも無いのでミリタリー系の話を期待される方も注意が必要です。

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読んで思った本書のポイント

1, 地中海を囲む情勢

本書では始めにハンニバルの祖国であるカルタゴについて、その成り立ちや政治形態等の解説が入ります。

またハンニバルの相手であるローマは勿論の事、要所要所でカルタゴやローマ以外の国(マケドニア等々)の情報も挿入されます。

カルタゴやローマの情報はハンニバルが活躍した第2次ポエニ戦争を紐解くにも必要な情報ですが、それ以外の情報がなぜ必要なのか?

その理由は彼の当時の動きを追う為に、その考えや背景を知る為にもローマやカルタゴ以外の他国の情報も知る必要があるからです。

実際のところ、ハンニバルが当時どのような戦略でローマと戦争をしていたか、その詳細は記録に残っていない為不明です。

これは第2次ポエニ戦争では最終的にローマが勝利した事から”伝えられている資料の大半がローマ側のモノ”である為です。

とどのつまり戦勝国側に都合の良い内容が多々見られる、ということですね。

しかしそれら資料や彼の生涯を研究した著者の想像では、ハンニバルは自身の持つ軍力ではローマを陥落させる事は容易ではないと考え、他国も巻き込んだローマ包囲網を作ろうとしたとの見方が出来るようです。

事実、彼はローマの目と鼻の先まで軍を進めておきながら、ローマに攻め入ることは無く周辺都市の制圧を行いつつ、マケドニア等に同盟打診を行っていたようです。

この事からハンニバルは地中海全体を見据えた、大局的な視点から動いていたことが推察できます。

つまり、ハンニバルの動きを知るには『何故そういった動きを取ったのか』を理解する為にも周辺地域や他国の情報が必要になってくる訳です。

2, ローマ侵攻時の詳細な動き

ハンニバルを語る上で外せない、というよりも彼の生涯の大半を占めているのが『第2次ポエニ戦争』です。

実際、本書でも大部分を割いてこの戦いの推移を述べています。

ですが、その内容は世界史にも載っていそうな大きな戦い(トラシメヌス湖畔の戦いやカンナエの決戦、ザマの戦いetc)だけではありません。

勿論そういった大きな会戦の解説も入りますが、本筋は『どういった方法でイタリアを侵略しローマを追い詰めたか』といった内容です。

いつ頃、どの都市や地域を攻め、どういったルートを通って行ったのか。

ローマ側はどういった動きを取っていたのか、それに対してハンニバルはどう対応していったのか。

第2次ポエニ戦争のイタリア半島における推移が(幾分か著者の予想が入りますが)語られています。

尚、ハンニバル本隊だけではなく、それ以外のカルタゴの諸将の動きも入ってくるので、その内容は『第2次ポエニ戦争の推移をハンニバルを中心に据えて描いた』とも言えるでしょう。

1つ注意して頂きたい点としては、本書で挙げられる地名は当時の地名に則っている点です。

その為、ぱっと見るだけでは『出てきた地名がどこに位置しているのか』が非常に分かり難いかと。

一応本書には地図も付いてはいるのですが、新たに地名が出てくる度にページを戻って地図を確認しなければならないのが難点です。

3, ハンニバル史とも言える内容

世界史を学び、『ハンニバル』という単語を覚えている方でも、知っている情報は『第2次ポエニ戦争ではアルプスを越えてイタリア侵略、最終的にスキピオに敗北』といった所でしょう。

確かにハンニバルと言えば第2次ポエニ戦争ですが、この辺りは年齢的に壮年とも言える時代の話になります。

勿論ハンニバルも人の子ですので、戦争の以前以後も存在していたことは確かであり、その情報は残されています。

本書では中々フォーカスされる機会の少ないハンニバルの幼少期や敗戦後~死亡までの足跡も追っています。

ポエニ戦争時代に比べ内容は薄めですが、それでも将軍・軍人としてのハンニバルとは異なる面を見せてくれます。

特に敗戦後カルタゴへ戻ったハンニバルは、『政治家としても優れていた』と考察している点は興味深いかと。

ハンニバルは最終的にカルタゴから脱出した後諸国を回り、最後はとある国で服毒し、死亡します。

このカルタゴからの脱出や服毒死にもやはりローマが大きく関係しており、彼の生涯は常にローマと関係していたと言えるでしょう。

尚、カルタゴ脱出後の彼の動きから、ハンニバルは祖国を追いやられた後も打倒ローマの思いを抱いていた、と著者は見ています。

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まとめ

本書は紀元前の人物でありながら、稀代の戦術家として名高いハンニバルの生涯を綴った一冊です。

その内容はハンニバルの代名詞とも言える第2次ポエニ戦争は勿論の事、彼の幼少期や敗戦後までも網羅しています。

割合としてはやはりポエニ戦争の時代が最も多い為、どういった戦術でローマを撃破したのか、といったようなミリタリー色が強く出ている部分もあります。

しかし、本書の大半は彼の取った行動、歴史の流れ、当時の資料を照らし合わせて、足りない部分は著者の研究・調査結果で補い、ハンニバルの足跡を辿る事に割かれています。

つまり『ハンニバルが何を考え、何を思ってその行動を取ったのか』を想像し、その生涯の軌跡をなぞっていく一冊、といった所でしょうか。

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