科学とSF、怪獣をリアルに考える【怪獣生物学入門】(10冊目)

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『怪獣生物学入門』
倉谷 滋(著)
集英社インターナショナル 2019/10/12 第一刷発行

本書を特にオススメしたい人

  • 怪獣自体に興味がある方
  • 怪獣、特撮映画に興味がある方
  • 生物学に興味がある方
  • 造形、特にクリーチャーの造形に興味がある方
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目次

はじめに(本書の紹介)

『怪獣』と聞いて何を思い浮かべますか?

ゴジラシリーズやガメラシリーズ、ウルトラマンの敵役やパシフィック・リムのKAIJUといった巨大怪獣。

寄生獣のパラサイト遊星からの物体X、MenInBlackの宇宙人等の小型怪獣。

脳裏に浮かぶものは人それぞれだと思いますが、多くは特徴的なデザインを持っているのではないでしょうか?

本書ではそんなユニークな特徴を持つ『怪獣』を生物学的な面から解説しています。

ですが怪獣の生物的デザインの欠点を挙げ不可能性を論じるわけではありません。

あくまで『怪獣が本当に生息していたならば』という前提の元、1種の生物と見なしてその特徴を考察しています。

その為、怪獣自体に興味がある方だけではなく、生物学や動物の造形に興味がある方にもオススメしたい1冊です。

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読んで思った本書のポイント

1, 怪獣がいるならば…

現実には存在しない『怪獣』、ロマン溢れる言葉です。

これまで様々な怪獣が映画を始めとした媒体で作り出されてきました。

しかし、『巨大怪獣』といった分野では日本生まれが非常に多いのではないでしょうか?

アメリカで生まれたキング・コングも有名ですが、日本が誇るゴジラもネームバリューでは負けていないでしょう。

他にも蛾をモチーフにしたモスラ、三つ首竜のキングキドラ、空飛ぶ巨大亀ガメラ等様々な怪獣達がいます。

本書はこういった『怪獣』、それも巨大怪獣だけではなく寄生獣(パラサイト)やマタンゴといったものも生物学的な視点から考察しています。

具体的には怪獣が『生物として存在しているならば=新種の生物』という仮定のもと、その生態や身体的構造はどういった特徴を有しているべきか等々を述べています

また、既存の生物に当てはまらない様な特徴についても『どのような矛盾を抱えているのか』、『どのような規則や基準を切り捨てて考えれば生物として纏まりを持つか』といった視点での考察もなされています。

その為、基本的には『怪獣』と『生物学の常識・通説・規則』を対比させつつ、どこがおかしいか、どうすれば説明がつくのかを述べていくのが本書の大まかな流れです。

生物学なんてかじったこともない、という方もいらっしゃると思いますが、本書内で解説が入るのでご安心を。

但し怪獣の『全て』を生物学的に考察している訳ではありません。

ゴジラの熱線やガメラのジェット噴射など、明らかに生物が持ち得ない特性については本書の範囲外となっています。

こういった点の解説・考察を望まれる方は注意が必要です。

2, 怪獣のリアリティとは?

数十MTの直立した巨体、力学なんて彼方に投げ捨てた体での超高速飛行、口や触覚からは熱線や光線を放つ。

現実ではあり得ないような特徴を持つからこそ『怪獣』と呼ばれる彼/彼女ら。

そんな怪獣にリアリティを求めるのはナンセンス、かもしれません。

しかし、著者は本書の冒頭で次のように述べています。

 人間には、普通の生物を普通に受け入れてしまう「形態学的感性」とでもいうべきものがあって、その背景には生物進化や形態発生のルールが横たわっているのだ。

 モンスターと純粋な生物学との間に関係がある必然性は一見ないが、人間が創作したものである以上、人間の感性が怪獣の設定やデザインに影響しないわけはなく、それを観る観客もまっとうな自然観や生物観の延長に恐怖の在処を見出すのである。

怪獣生物学入門 倉谷 滋(著) 6P

怪獣の設定上、太陽系内の惑星やら銀河の彼方やら異次元やらが出身といったものも多くいます。

しかし、多くは『地球上の生物』の様に左右対称で、身体の各部位が一目でわかる構造を持っています。

つまり地球とは異なる環境・法則で生まれた生き物であるはずが、『地球上に』実在する生物に似た構造パターンを取っていることになります。

確かに生物が発生・進化していく上で、その構造やデザインは環境が違っても似た形に収束する可能性も考えられるでしょう。

ですが、流石に宇宙空間で生きる怪獣に立派な足が生えている、といったようによくよく考えると『何故その器官があるの?』といった疑問が出てくるのではないでしょうか?

本書における怪獣のリアリティとは『そのデザインで存在するならば生物学的には〇〇という特徴を持っているはずである』といった点から追求が始まります。

ですが、生物学的に全て説明がつくようなデザインの怪獣は『ただの動物』でしかありません。

逆に全く説明がつかない形、特徴でデザインされているならば、それは観客からは『生物』と認識されず『不気味な物体』若しくは『空想の張りぼて』と捉えられるでしょう。

既存生物に当てはまらない特徴を有しているからこそ『怪獣』。

しかし、既存生物に当てはまらないだけで、そうなった根拠が説明できるならば、それは『あり得たかもしれない進化、生物』に近くなるのではないでしょうか

怪獣の特徴にどれだけもっともらしい根拠が見えるか、場当たり的なものではなく『生き物として自然な根拠』、あり得ない怪獣のリアリティを決めるのはこの『設定の自然さ』なのでしょう。

ですが注意して頂きたいのは、本書は『怪獣の形が生物的に辻褄が合っている』事を追求するだけでは無い、という点です。

本書ではこの『辻褄』について次のように述べています。

トリの翼のような特殊化した構造に付随する機能や、それに基づいた適応的行動パターンは、文字通り「論理(ロジック)」として整合的に語られる。たとえば「空を飛ぶための翼」のように。しかしそれは本来、「辻褄が合っている」という以上のことを意味しない。なのになぜか、「飛ぶための翼を持つ」という、一種の「目的論」としてそれが語られることが多い。むろん、動物の形を決めた「目的」など、この世にあった試しはない。「目的」をもって生物を作ったものもいるはずはない。だからこそ、生物核の世界では目的論的説明は御法度とされる。むしろ進化生物学的に問題となるのは「なぜそうなったのか」という経緯なのである。

怪獣生物学入門 倉谷 滋(著) 118~119P

つまり、飛行する怪獣だから翼を持つ、では無く、その怪獣が翼を持つに至った進化的経緯も考える、という事ですね。

3, 不定形のクリーチャー

本書では巨大怪獣がメインとなっていますが、それ以外も採り上げています。

具体的には寄生獣(パラサイト)やマタンゴですが、これらは頑張っても成人レベルの大きさです。

というのも彼ら(?)は『人に寄生するモンスター』ですので、巨大さによる圧倒的な暴力ではなく『人間の意識を乗っ取る』といった点で作中では猛威を振るっています。

多くの不定形クリーチャーはこういった『寄生』という一面を持っており、知らぬ間に感染し、隣人がいつの間にか別の生物になっている、といった恐怖を与えます。

では何故寄生系怪獣はそこまで不気味で、恐怖を煽るのか。

巨大怪獣はぱっと見て『恐竜に似ている』『鳥に似ている』『昆虫に似ている』といった大まかなデザイン系統が判断できます。

例え複数の生物が混ざったような怪獣でも、部分部分の特徴から何と何が混ざったかは判別できるはずです。

しかし、寄生系怪獣のモチーフである『寄生虫』などは種によっては非常に小さく、生態は一般的ではないでしょう。

その為寄生系怪獣に関しては『形状的に近い生物』が中々思い浮かばない=自分の生物観・自然観から逸脱する事から不気味な生物に見えるのではないでしょうか。

また生態的にも馴染みがない為、その不気味さが一層増しているかもしれません。

尚、本書においてパラサイトとマタンゴでは同じ寄生系であっても採り上げている側面が少々異なります。

どちらも最終的には寄生系怪獣に乗っ取られるのですが、これは次の違いによるものだと思われます。

  • パラサイト
    ・寄生が成功すれば『初っ端から自意識が無くなる』
    ・パラサイト自体は一度寄生するとそこから増えない為、仲間を増やそうとしない
  • マタンゴ
    ・寄生されると『徐々に自意識が無くなる(と思われる)』
    ・積極的に仲間を増やそうとする=2次感染を引き起こそうとする

その為、パラサイトでは『パラサイト自体の生態や構造』等のそれ自体を採り上げるのに対し、マタンゴでは『寄生された人間の状態』や『どこまで人間でいられたのか』といった寄生された側を主に採り上げています。

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まとめ

本書は数多の媒体で作り出された『怪獣』を生物学的な面から捉え、考察を試みています。

ですが、怪獣の矛盾を突き、あり得ない生物だと不可能性を挙げるのではありません。

確かにあり得ない設定やらデザインが出てきますが、それも不可能と切り捨てるのではなく、どうすればその特徴を持ち得るのかを考えていく。

つまり本書は『空想上の新種を科学的に考える思考実験』を纏めた1冊という事になります。

ゴジラの歯、キングギドラの翼、ガメラの出自、パラサイトの細胞…

作中ではあまり説明されず、フォーカスされ難い、怪獣の1部分

ですがこれらも『生物の1部』であり、ここから彼らの生態や進化の軌跡を見ることが出来るのです。

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