理科&科学の楽しさを教えてくれる、空想科学の教科書【アリエナクナイ科学ノ教科書】(12冊目)
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アリエナクナイ科学の教科書
くられ(著)
ソシム株式会社 2017/3/10 第一刷発行
本書を特にオススメしたい人
- 理科や科学に興味がある方
- マンガ、アニメ、映画といったフィクション自体に興味がある方
- フィクション内の科学、設定が好きな方
- 雑学に興味がある方
目次
- はじめに(本書の紹介)
- 読んで思った本書のポイント
1, アリエナイではなくアリエルを考える
2, 今の技術でどこまで行けるか
3, 知っている作品・設定・描写とリンクする科学 - まとめ
はじめに(本書の紹介)
世界に溢れる様々なSF、ファンタジー、ホラー等々のフィクション作品。
星間飛行の遠い未来から近未来のサイボーグ、世界に溢れるゾンビ、強大な力を振るう恐竜やヴァンパイアetcetc。
それらに私たちが惹かれる理由は作品に登場する魅力的なキャラクターだけではなく、練りこまれた世界観・設定も影響しているのは間違いないでしょう。
ですが、フィクションと分類されている事から分かる通り、出てくる設定等は『現代では』実物はお目に掛かれません。
時たまニュースなどでそれっぽい研究結果が発信されることもありますが、続報が無かったり将又理論上の仮説であったりとフィクションをノンフィクションに変えるには至りません。
では、フィクションに出てくる設定は全て荒唐無稽で未来でも実現不可能なのでしょうか?
SFの父ともいわれるジュール・ヴェルヌは次のようなニュアンスの言葉を言ったとされています。
人間が想像できることは、人間が必ず実現できる
(Tout ce qu’un homme est capable d’imaginer, d’autres hommes seront capables)
本書では上記の言葉を”ある程度”体現したかの様にフィクションに出てくる設定・科学技術等々『ヒト』『脅威・怪異』『テクノロジー』『環境・設定』の4つにジャンル分けして解説しています。
また解説の立ち位置は『どうやったら科学的にアリエルのか』という肯定的な観点となっており、現代科学をベースにして再現するにはどうすれば良いのか又は本当に存在するならばどうなのか、といった形になっています。
尚、本書は題名に『教科書』と付けられていますが、これは著者の『科学はもっと身近にあるべき』という主張と『漫画やアニメ、映画の空想世界を入り口にして科学を楽しんでもらう』という目的から名づけられています。
その為、初歩的なところから解説が入るので話のネタに全くついていけない、ということもありません。
触れやすい所から科学の楽しさに触れ、新たな知識を仕入れる事で新たな想像を生む。
何か『作品』を作る方には世界観や設定のネタ本としても、純粋に理科や科学が好きな人だけではなくそれらが苦手な人にも、または単純に雑学が好きな方にもオススメしたい1冊です。
読んで思った本書のポイント
1, アリエナイではなくアリエルを考える
科学的に見ればアリエナイと一蹴されてしまうような描写。
巨大モンスターや怪物といったクリーチャーやウィルスによるゾンビ発生等々。
本書ではこういった設定をアリエルものとして捉え、現代科学をベースに解説しています。
例えばヴァンパイアや幽霊など。
ヴァンパイアのイメージとして最も強いものは『ニンニクを嫌う』『日光に弱い』『不老』『人の血を吸う』あたりでしょう。
怪異としてのキャラ付けと言われると何とも言えませんが、それぞれの特徴に対して現実の科学知識・情報を使って理由付けを試みると…
ニンニクが嫌いなのは代謝系に異常が発生するから、日光に弱いのは重度の光過敏症か 細胞性アポトーシスを促すp53遺伝子を活性化させている可能性、吸血するのは『血液に含まれる成分』がヴァンパイアの生存に不可欠だから、等々。
同じように幽霊に関しても理由付け及び解説を試みていますが、結果だけを述べるなら
『幽霊は時速約620kmですっ飛んでくる可能性がある』という推論が得られています。
(何故そうなったかは是非本書を読んで知っていただきたいです)
他にも様々な題材に対して同様に解説が行われ、時には上記の幽霊のように最終的に出来上がる想像図が中々愉快なものになることもあります。
ですが筋道を立てて解説されると、とんでもない結論・推論なのにもかかわらず逆に納得できる部分もあるのが面白い所です。
2, 今の技術でどこまで行けるか
時代設定が過去から現代にかけての作品ならば、登場するものはまだ説明がつきやすいものが多いでしょう。
ですが本書では科学技術が発達した未来を舞台にした作品・設定まで採り上げています。
これらはとんでもない超科学技術を『今の技術で可能な限り再現したならば』、『将来的にどの辺がクリア出来れば実現できそうか』といった点からの解説になります。
例えばSF系でありがちな 『ビーム or レーザー的な刀剣でチャンバラ』。
この場合、現代科学でそのまま再現しようとしたならば、刃を合わせた瞬間に互いにすり抜けてバッサリといった感じになるでしょう。
ですが作中ではちゃんと鍔迫り合いをしたりと『刀剣』ぽさがあります。
絵面の迫力や見栄え上そうしている、と言われるとそうなのかもしれませんが、本書では所々力業ではありますが理論上再現するにはどうしたら良いかを述べています。
内容はネタバレになる為伏せますが、最終的には『見た目はビームソード、実際はどでかいトーチか風船ならばあるいは…』といった所に落ち着いています。
著者が作中の演出や設定に可能な限り近づけようと頑張った結果、コレじゃ無い感が出てくる部分もありますが、真面目に考えるとそうなるのも理解できます。
ロマン溢れる空想技術を不格好であっても再現しようと考える、本書ではこういった『考える楽しさ』も教えてくれるでしょう。
また、現代科学ではどうしても解決できない部分を作品の設定として受け入れられる様落とし込むことが出来れば、その作品は他よりも説得力のあるものになるのかも知れません。
3, 知っている作品・設定・描写とリンクする科学
本書では一つのテーマに対して10ページ以下で、分かり易く解説していますが、始めに『そのテーマが扱われている作品』についても触れています。
恐らく、本書を読むとどれか一つは聞いたこと・見たことがある作品があるでしょう。
サイボーグを取り扱っている作品や鉄も易々と切断する刀を取り扱っている作品、はたまた毒や麻痺といった状態異常を取り扱っている作品や派手な爆発が起こる作品等々。
いきなり『サイボーグを実現するには』『刀で鉄を斬るには』『爆発とは』と言われてもピンと来ませんが、先にそういった作品が挙げられることで解説の焦点が想像しやすくなっています。
例えば、毎年新作が公開される某少年探偵の映画のラストで起こる『爆発』。
実はこの爆発には2種類があることをご存じでしょうか。
大体の映画では『どでかい火が上がる』といった描写ですが、これは『爆燃』と呼ばれ、実は火や煙としてエネルギーがロスしている状態との事です。
対してミサイルなどは『爆轟(ばくごう)』と呼ばれる現象らしく、火は上がらず強力な衝撃波を発生させるとの事。
つまりミサイルなどが着弾した場所に炎上する物や施設が無い限り、大爆発・炎上とはならないと言う事です。
いきなりテーマに切り込むのではなく、まず初めに馴染みやすい場所から入っていく。
理科や科学が苦手な方にオススメしたいと冒頭で述べたのはこの点があるからです。
小難しい理論や数式も重要ですが、何よりもまずは『イメージ』を捉え、そこから順を追ってテーマ解説を行っている点が本書の肝だと思います。
まとめ
本書では空想科学を再現するにはどうすれば良いか、アリエルならばどうなるかだけでは無く、フィクションのお約束といったテーマについても解説が成されています。
その為、何らかの作品を作り出す方ならば『ネタ元』や『世界観の練りこみ』にも使えるかもしれません。
また取り扱っているジャンル・題材となるテーマは幅広いため雑学好きな方にも向いているでしょう。
一方、文量としては一つのテーマにつき10ページ以下と各テーマに多くのページは割かれていませんが、それは逆に読み易さにも繋がっています。
題材が漫画やアニメ、映画と親しみやすくイメージしやすいものであり、初歩的な部分から解説が成されるので理科や科学が苦手な方にもオススメ出来る1冊です。
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