無意味かもしれないが、羨ましくも面白い日常【時をかけるゆとり】(6冊目)

今回ご紹介する書籍はこちら

『時をかけるゆとり』
朝井リョウ(著)
文藝春秋 2014/12/10 初版発行

本書を特にオススメしたい人

  • 最近笑ってないな、と思う方
  • 気軽に読書をしたい方
  • エッセイ』という分野に興味がある方
  • 文章で人を笑わせるという才能に触れてみたい方
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目次

はじめに(本書の紹介)

自分自身の普段の生活や考え方、余暇の過ごし方をどう思っていますが?

自身のことなので疑問に思うこともなく、いたって普通と感じる方が大多数ではないでしょうか。

ですが、他の人から見ればその『普通』も非常にユニークなものかもしれません。



本書は著者 朝井リョウ氏が経験した出来事、主に大学時代の経験を俯瞰的な視点から面白おかしく綴ったエッセイ集です。

尚、本書の帯に書かれている言葉は『圧倒的に無意味な読書体験』。

これから買おうor読もう思っているのに圧倒的に無意味とは何ぞや、と感じるかもしれません。

ですが、一度手に取り、中身を見れば『あぁなるほど』と納得することでしょう。


バイトや大学時代の長い夏休み、就職活動など身近な出来事がベースにあるためか、はたまた著者の文才によるものか、経験したことが無くとも読めばその情景が浮かぶ面白さ。

全23編で構成されている為、気軽に読むことが出来る1冊です。

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読んで思った本書のポイント

1, 日常

金はないが時間はある、そして高校時代よりも自由な大学生が送った日常が本書のメインになりますが、その日常は非常にユニークです。


学祭で何をやるか悩んだ末にダイエットドキュメンタリーを撮ることに決定するくだりや、計画の失敗で東北貧乏ツアーに変わったフェス旅行などは大学生でなければ経験できないでしょう。

そんな『何であんなことを』という後から思い返すととちょっと黒歴史になってしまいそうな、でも笑い話になるような出来事がこれでもかと詰め込まれています。

そのどれもがノリで押し切るような勢いと、肩の力が抜けるような『ゆるさ』が両立しているので、気軽に読めるのが本書の魅力の一つではないかと思います。

2, できそうだが、やらないorやれない

ピックアップされている出来事の中には『日常なのか?』と言いそうなものもあります。

例えば『100kmを2日間で踏破する』や『東京~京都 自転車旅行』などを経験している人は少ないと思います。

ですが、それらをスパルタスロンや自転車日本一周と比べるとどうでしょうか?

その辛さが何となく想像できそうな、頑張れば出来そうだが敢えてやる事もないような、そんな絶妙のラインに思えてくるのではないでしょうか。


経験がないことは非常に想像しにくく、移入しにくいものです。

ですが本書では『気合を入れて、準備もすれば何とかできそうだけども…』というレベルの出来事と、著者の語り口(後述)の相乗効果によるものなのか、その情景が非常に想像しやすいと感じました。

読み進めると増していく不思議な没入感、これも本書の魅力の一つかと思います。

3, 俯瞰で見る面白さ

本書最大の特徴は、著者が周囲も自身も『俯瞰』で捉えている点ではないかと思います。


ユニークな日常やチャレンジ精神にあふれた出来事を詰め込んだ本書ですが、度々著者の客観的な意見、ツッコミが入ります。

客観的といっても、当事者でありながら一歩引いた視点だけではありません。

時には『後から振り返った』視点でも見ている為か、作中の出来事に対して非常に冷静な語りをとっています。

また、この客観性と著者の豊かな語彙力から、面白い状況の中で埋もれてしまう一コマも消えることなく、寧ろ本筋を引き立てる面白さを発揮しているのも魅力の一つかと思います。

何れにしろユニークな出来事と冷静なツッコミ、この温度差が本書の面白さを一層引き立てていることは間違いないでしょう。

4, 時々入る良い話

本書は前述のとおりユニークな日常などがメインになっていますが、中にはいわゆる『良い話』や『真面目な語り』もあります。

例えば『直木賞を受賞しスカしたエッセイを書く』と少々自虐的な題名が付けられているストーリーなどがそれに当たるでしょう。

このストーリーは夢を追う切っ掛け、先を越された焦りなど『考えさせられる話』であり、それまでのストーリーとは趣向が違う話であることは間違いないと思います。

面白い話の中に突如現れる毛色の違う話に戸惑うかもしれませんが、寧ろこういった部分が良いアクセントになり、他のストーリーも一層魅力的にしているのかもしれません。


但し、この次の話は『直木賞で浮かれていたら尻が爆発する』であり、題名だけでも凄まじい落差があることはお分かり頂けると思います。

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まとめ

本書は著者 朝井リョウ氏が経験した出来事、主に大学時代のユニークな経験を俯瞰的な視点から面白おかしく綴ったエッセイ集です。

一歩引いた視点から語られる冷静なツッコミと状況の温度差、何気ない一コマも採り上げて活かす語彙力と観察力からどのストーリーも面白さに溢れています。

また、時折出てくる良い話や真面目な語りはそれだけでも『読ませる』レベルだけでなく、面白いエピソードを一層魅力的にしています。


本書の帯にあった『圧倒的に無意味な読書体験』ですが、得られる知識や教養といった面から見ればそうかもしれません。

しかし、本書を読んで自身の昔を懐かしむ切っ掛けが出来たり、著者のように日常からちょっとした面白さを発見出来たならば無意味では無いのではないでしょうか。

そんな本書は普段本を読まない方にでもオススメ出来る、気軽に読める笑いに満ちた一冊です。





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