鳥類と鳥類学者の(知られざる)生態【鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。】(9冊目)
今回ご紹介する書籍はこちら
『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』
川上和人(著)
株式会社新潮社 2017/4/18 初版発行
本書を特にオススメしたい人
- 気軽に読書をしたい方
- 肩肘張らずに知識を得たい方
- 鳥類、もしくは鳥類学者に興味がある方
目次
- はじめに(本書の紹介)
- 読んで思った本書のポイント
1, 鳥類学者って?
2, 兎にも角にもフィールドワーク
3, 語り口 - まとめ
はじめに(本書の紹介)
『学者』と聞くとどんなことを思い浮かべますか?
”白衣”、”実験器具”、”インドア”といったイメージが思い浮かぶ人が多いのではないでしょうか。
中にはそんなイメージ通りの学者もいるでしょう。
しかし、学者と言っても研究分野は千差万別。
中にはアウトドアの極み、自然相手に四苦八苦といった方もいるのです。
本書は鳥類学者である川上和仁氏によるエッセイ、のような1冊です。
普段の研究で著者がどういった活動をしているのか。
実際に調査・研究をした鳥類と合わせ、その情景が浮かぶほど活き活きと書かれています。
しかし研究活動それ自体だけではなく、『その周辺エピソード』も非常に面白く描写されています。
中には重いテーマもありますが、著者の書き方・語り方が上手く愉快なため、全体的に気を張らず脱力して読める、そんな1冊です。
読んで思った本書のポイント
1, 鳥類学者って?
読んで字のごとく、『鳥類』を研究している『学者』。
そんなことは言わなくても知っている、と御思いになったでしょう。
ですが、友人や知り合いに鳥類学者が居られる方は殆どいないと思います。
あなたには、鳥類学者の友人はおられるだろうか。多くの方にとって、答えは否だろう。原因の半分は、鳥類学者がシャイで友達作りが下手だからだ。残りの半分は、人数が少ないからである。
鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。 川上 和仁(著) 1P
本書が発行された当時、鳥類学者は日本全国で1,200人(日本鳥学会会員数=学者数とカウント)らしく、タレント名鑑に載っているモデル・芸能人の約1/10との事です。
単純計算、鳥類学者の友達を1人作るには日本人口を1億2000万人とすると、10万人の知り合いを作る必要があるようです。
長々と書きましたが、それだけ『レア』な存在なため、鳥類学者やひいては鳥類の詳しい話を知っている方も少ないのではないでしょうか。
本書はそういった身近にいるがあまり知られていない『鳥類』と、それらを研究するレアな存在について述べています。
鳥類の生態やら、鳥類学者の研究手法など難しそうな話題は多々出てきますが、著者の語り口が上手いためすんなりと読み進めることが出来るでしょう。
2, 兎にも角にもフィールドワーク
鳥類学者の研究対象はその名のとおり『鳥類』です。
飼育されている個体を除けば鳥は『外』にしかいません。
つまり、鳥類学者の研究場所は野外がメインとなるのは当たり前と言えば当たり前ですね。
本書では著者が研究した鳥類とその研究課程等々について面白おかしく述べていますが、その中でもピックアップしたいのは…
『第二章 鳥類学者、絶海の孤島で死にそうになる』
でしょうか。
本章では無人島である南硫黄島へ著者を含めた調査団が入島、調査研究を行った事例が述べられています。
南硫黄島は断崖で囲まれた絶海の孤島であるため、原生状態の自然が残されています。
こういった人間の影響が無い環境は陸地ではありえない為、ありのままの生態系を研究するには最適なの場所となります。
さて、こういった環境に立ち入る際にはどういった注意が必要か?
外来生物を持ち込まない為に持ち物は入念に検査し、荷物を詰める場所は締め切ったクリーンルーム。
荷物を運ぶ漁船も外注除去が行われ、調査員も種子のある食物が禁止されます。
ここまでが事前準備ですが、上陸するにも、した後も苦難が続いていくのです。
島近海からは泳ぎ、島の断崖を上り、島に着いたら着いたで急勾配と落石を始めとした事故が常に付きまとうのです。
平常時では体験できないようなアウトドアの極み。
普段目にも耳にもしない鳥類学者がどういった活動を行っているか、その一端を知るにはもってこいの1冊ではないでしょうか。
3, 語り口
本書が『読みやすい』と感じる最大の理由は、著者の軽快な語り口でしょう。
本書は書き言葉、というよりも話し言葉といった文体で書かれています。
そのような文体な為、論文のような難解な言葉使いは非常に少なくない事が特徴です。
また著者の思い等々も入る事もあり、読みやすい文と合わさることでその時の情景が想像しやすくなっています。
例えば『第二章 鳥類学者、絶海の孤島で死にそうになる』 の一部から引用すると…
その隣では、小柄なカタツムリ研究者が海に鋭い視線を向けている。新種4種と引き替えに、やはり大事なメガネを山の神に奉納したため、眼を細めないと良く見えないらしい。視線の先の波打ち際では、水棲動物学者が記録映像を撮っている。落石対策のヘルメットを着用しているのは立派だが、首から下はトランクス1枚だ。彼は一体何を守っているのだろう。
鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。 川上 和仁(著) 65P
混沌とした状況が脳裏に浮かびませんでしたか?
勿論、終始このような状態で進むわけではありません。
中には食物連鎖や外来生物による被害、それを回復させるための駆除といった重いテーマを取り扱っている章もあります。
しかし、著者の語りに掛かれば気負わずに読める事は間違いないでしょう。
なお、1ページにつき1回は『何らかの例え』が入ることも特徴の一つでしょう。
但しその例えは何らかのアニメ、漫画、映画等々から持ってくることが多いので、それらの元ネタが分かればより一層楽しんで読むことが出来るかと思います。
まとめ
本書は鳥類学者 川上和人氏による鳥類とその調査研究について、そして周囲で起こった様々な出来事を記した1冊です。
学者が書いた本だから、と難しく考える事なかれ。
非常に読みやすい文章、調査研究の際に起こったカオスな出来事、サブカルチャーからの引用と引き込まれる要素が詰まっています。
鳥類に関しても実在の鳥からキョロちゃんまで採り上げており、その幅の広さは脱帽ものです。
また、本書の魅力は面白おかしい体験談だけではありません。
生物を研究対象にする上で避けては通れない『人の影響』について述べた部分も魅力の一つでしょう。
人により住み着いた外来生物とその影響、更に以前の状態に回復させるためにはどうしたら良いのか。
島全体を考えた場合ではどうすれば良いのか、といった繊細な問題は読者も考えさせられるのではないでしょうか。
普段目にするけれども詳しくは知らない鳥類、それを研究するレアな学者の体験記といった面だけではなく、生物を研究する上で避けては通れない繊細な問題も採り上げる。
本書は『生物』を研究する面白さだけではなく、それを扱う難しさも教えてくれる、そんな1冊です。
今回ご紹介した書籍はこちら