第2次世界大戦、それ以後の戦術・戦略【新・戦争学】(7冊目)
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『新・戦争学』
松村 劭(著)
文藝春秋 2000/8/20 初版発行
本書を特にオススメしたい人
- 戦術、戦略といった単語に興味がある方
- 特に戦車や航空機を用いた戦術・戦略に興味がある方
- 第2次世界大戦直前~湾岸戦争あたりの戦史に興味がある方
- 軍事や政治戦略に興味がある方
- 雑学が好きな方
目次
- はじめに(本書の紹介)
- 読んで思った本書のポイント
1, 9原則、6要素、5機能
2, 戦争の傾向
3, 新たな戦術 - まとめ
はじめに(本書の紹介)
同著者の『戦争学』でも解説されていましたが、古代や中世の軍隊は密集陣形を取り、敵軍とぶつかり合うことで勝敗を決していました。
密集陣形を取る理由は情報伝達を簡単に行うためであり、また人を集めることで攻撃の密度を高めるためだったのでしょう。
当時最速の兵科は騎兵であり、その機動力と突進の破壊力は非常に恐ろしいものであることは想像に難くありません。
近代に近づくにつれ歩兵も剣から銃に持ち替え、砲兵という兵科も現れましたが、『戦争の仕組み』自体は比較的緩やかな変化だったのではないかと思われます。
しかし、技術の発展は生活面だけではなく軍事面でも大きな革新を生みました。
機関銃は防衛において猛威を振るっただけなく、連射可能な銃の登場と通信技術の発達により密集陣形が姿を消していきます。
ジェットエンジンなどの内燃機関は、ミサイルといった超長射程・大火力だけではなく兵力の長距離移動と大量投入も容易にしました。
そして戦車や航空機といった騎兵以上の火力と機動力が現れ、それまでとは『戦争の仕組み』が一変していったのです。
本書では20世紀の軍事面を主に解説しています。
採り上げられている内容としては、第1次世界大戦前から第2次世界大戦、冷戦とその後のポスト冷戦に位置付けされる局地戦争などになります。
また、20世紀から猛威を振るい始めた戦車や航空機を用いた戦術についても触れられており、その戦術がどのように洗練されていったかも述べられています。
『戦争学』よりも軍事や政治戦略的な側面が強く採り上げられていると感じましたが、前書と同様『勝つための戦術・戦略』を学ぶのに参考となる1冊です。
読んで思った本書のポイント
1, 9原則、6要素、5機能
戦争学の基礎知識として上の3つを本書のはじめで挙げていますが、それぞれ次のような意味になります。
- 9原則:どれだけ沿えるかが勝敗の分かれ目となる戦いの原則
- 6要素:戦いにおける戦力のステータスともいえる6つの要素
- 5機能:戦力を運用する際の5つの行動
まず『9原則』ですが、これは以下のように述べられています。
「戦いの目標を確立し、先制・主導権を握って、敵の弱点に対し果敢に起動し、相対的に大きく結集した戦闘力をもって奇襲的に打撃する。このとき、敵から奇襲を受けないよう十分に警戒する。また、効率よく戦うためには、指揮を統一し、第一線兵士にも理解できる簡単・明瞭な作戦計画を作成して部隊を無駄なく使用することが必要である」
新・戦争学 松村 劭(著) 21P
次いで『6要素』は以下に分けられています。
- 火力:ミサイルや砲などで、企業ならば『宣伝力』
- 機動力:車やヘリコプターなどの移動用装備、企業ならば『商品力』
- 指揮・通信力:無線や伝令、企業ならば『上役の能力』
- 情報・警戒力:センサーや偵察機、企業ならば『市場からの情報収集力』
- 防護力:装甲、要塞、地雷などで、企業ならば『特許などの優位性』
- 人事・兵站力:補充兵力や物資だが、企業ならば『供給力や資本投入』
本書において4と5の企業・ビジネスにおける例えはありませんでしたが、恐らく上記のような『能力』になるでしょう。
さて、最後に『5機能』についてですが、これは以下の5つに分類されています。
- 発見:まずは偵察を行い敵や弱点を見つけなければ始まらなない
- 拘束:相手の動きを制限し、自由な行動を取らせない
- 制圧・かく乱:強固に纏まっていると手強いので、火力で乱す
- 機動:態勢が崩れた時は弱点に向かって機動し、更に揺さぶる
- 打撃・占領:チャンスが来たならば一気に打撃する
つまり、戦いの基本は『9原則』に則って『6要素』を運用し、『5機能』すべてを使うということになります。
戦闘ではなく自分が考えやすい例、例えば会社の販売戦略や選挙の政治戦略などをベースに考えると『9原則』『6要素』『5機能』は身近な場所でも当てはまるものが多いのではないでしょうか。
また思い浮かべたものが失敗していたならば、何が足りなかったのか、どうすれば成功したのかをこれら原則に当てはめて考えるのも面白いかも知れません。
2, 戦争の傾向
技術の発達により戦争の傾向は大きく変わりました。
幾つかあるうちの1つ目は『規模の拡大』。
この『規模』は戦闘範囲だけではなく、『戦争による被害』のことでもあります。
例えば第1次世界大戦では『陣地戦』で機関銃が猛威を振るい、西部戦線だけで100万人を超える被害を生み出したそうです。
この結果から防衛側は幾つも塹壕・陣地を築き、それらを年輪のように並べることで強固な防衛ラインを構築するようになりました。
対して攻撃側はこれを突破するために『機関銃に負けない固い装甲』と塹壕を乗り越える『機動性』を併せ持った『戦車』を開発していくのです。
2つ目は『海戦の主役交代』。
第2次大戦前までは前大戦の教訓から『制海権は戦艦の決戦』により決まる、とされていました。
その為各国は戦艦の建造に躍起になるのですが、戦艦はその効果を発揮しませんでした。
航空機の登場により空母が海戦の主役となったのです。
これも内燃機関の発達による時代の大きな変化の一つでしょう。
また、通商破壊作戦も国家に対して甚大な被害をもたらすことが分かり、潜水艦も一躍主役級に躍り出ました。
これらの他にも様々な変化が起こるのですが、予想と結果が大きく異なるケースが多々が見られます。
勿論、運用する側の不手際もあったでしょうし、そもそもの装備自体が不十分な性能だったのかもしれません。
本書ではそのような事態を次のような言葉で表しています。
戦史は「運用の課題を技術の課題にすり替えるほど、戦略・戦術が硬直し脆弱になる」ことを教えている。
新・戦争学 松村 劭(著) 46P
どんな状況にも対応できる装備は、十中八九『中途半端』な装備となります。
想定外の方法・状況で使われた装備はその性能を発揮しきれず、敗因の一つとなるでしょう。
実際に第2次大戦で猛威を振るった戦術は『既存の戦術を研究し、今できることを把握し、それを活かすための装備を作り、それに合わせて運用を行う』という流れに則っていると思われます。
今ある装備で勝つためにはどうするか、の他に『勝つためにはどのような性能が必要か』を研究し、それに合わせて開発・運用していくことが重要となるのではないでしょうか。
3, 新たな戦術
第2次世界大戦で有名な戦術の一つとしてドイツの『電撃戦』が挙げられます。
これは第1次世界大戦に負けたドイツが、縮小した軍事力でも勝つために編み出したものです。
塹壕が幾重にも渡り、普通に攻めるならば人的・物的被害も大きく、侵攻速度も上がらない状況を打破するにはどうすれば良いかを考え、生まれた戦術なのでしょう。
開戦当初は電撃戦により破竹の勢いで勝ち進んだドイツも、歴史が示す通り最後は敗北します。
これは電撃戦が研究されたほか、自国の『6要素』や作戦の『9原則』を度外視してしまった事が最大の要因なのかもしれません。
というのも、自国の状況や戦術にも適さない装備を作り始め、作戦方針と合わない行動をしていたことが後世の研究で明らかになっているのです。
第2次世界大戦でのドイツの敗北から『優秀な戦術だけではなく、リソースと状況の把握』が重要であることが分かります。
ですが把握するだけではなく、そこからどう進歩していくか、作戦方針と行動が合致しているかを確認・修正していくことも重要であることを教えてくれます。
伝統や過去の成功に倣うことは、時と場合によりますが成功への近道でしょう。
ですが倣う前にそれが今の状況でも活きるのか、どう活かしていくのかを考える必要があるのではないでしょうか?
まとめ
本書では20世紀に起きた軍事面を解説しています。
勝つための原則や要素、各国の戦術を戦闘・作戦の記録と照らし合わせており、普段目にしにくい情報でも全体像を捉えやすくなっています。
また、所々で格言ともいえる言葉が掲載されており、『勝つための考え方・動き方』を考える上で参考になることは間違いないと思います。
勿論、第2次大戦後の世界的な戦争の動きについても述べられていますので、そちらの方面に興味がある方にもオススメできます。
本書だけでも『勝つにはどうすれば良いのか』を教えてくれますが、同著者の『戦争学』もあわせて読むことでより理解が深まる1冊です。
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