名声、金銭、地位を得る最短の道?宗教の仕組みを理論的に語る奇書【完全教祖マニュアル】(14冊目)
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完全教祖マニュアル
架神恭介(著)、辰巳一世(著)
筑摩書房 2009/11/1 第一刷発行
本書を特にオススメしたい人
- 宗教そのもの、その成り立ち等に興味がある方
- 新興宗教が何故成立するか疑問に思う方
- 人を集める、率いる、動かすといった方面に興味がある方
- 雑学が好きな方、興味がある方
目次
- はじめに(本書の紹介)
- 読んで思った本書のポイント
1, 過激な要点(チェックポイント)と語り方
2, 思わず納得”してしまう”根拠
3, 日本で教祖を目指す - まとめ
はじめに(本書の紹介)
『完全教祖マニュアル』
このタイトルを見た時、大抵の人は『怪しい』『胡散臭い』と感じるでしょう。
恐らくその感覚は”タイトル全体の怪しさ”だけではなく、題材である”教祖”という単語からも連想されているのではないでしょうか。
実際、本書の序章には次のような部分があり、ここだけ切り取ると…
みなさんは、人に尊敬されたい、人の上に立ちたい、人を率いたい、人を操りたい、そんなことを思ったことがありませんか?でも、自分には才能がない、学がない、資産がない、そんなのは一部のエリートだけの特権だ、等と理由を付けて夢を諦めていませんか?確かに、これらの夢を叶えることは非常に難しいことです。ですが、悲観することはありません。何も持たざるあなたにも、たった一つだけ夢を叶える方法が残されています。そう、それが教祖です!新興宗教の教祖になれば、あなたの夢は全て叶うのです!
筑摩書房 2009/11/1 第一刷発行 完全教祖マニュアル 架神恭介(著)、辰巳一世(著) 7P
非常に怪しい謳い文句にしか見えません。
しかし、本書は何か特定の宗教を信仰させようといったものではありません。
あくまでタイトル通り『教祖になる為のHowto、Know-how』が書かれている『マニュアル』です。
マニュアルとはどういったものなのか、というと大まかに言えば『宗教の仕組み』を理論立てて解説したものです。
表現自体はかなり過激な為、『マニュアルの要点』だけを見ると”ありえない””信じられない”と感じるかもしれません。
しかし、何故その結論に至ったかを有名宗教(キリスト教etc)を例に挙げて解説しているので、読み進めると納得できます。
その為、宗教に興味がある方、その中でも『何から手を付ければいいか分からない』といった方には特にオススメです。
尚、一つの宗教に特化した書籍ではない為、それらと比べると背景や知識・用語の掘り下げる度合いは比較的浅いものだと思われます。
ですが、日本人にありがちな無宗教、というよりも宗教への無関心さから掲載されている知識・用語は中々聞くことが無いものでしょう。
故に、雑学や豆知識が好きな方にも読んで頂きたい一冊でもあります。
また、教祖になるという事は”自分の教えを信仰する人を集める”という事でもあります。
その為マニュアル内では”人をどう動かせば入信するのか、より熱心な信者となるのか”というヒトの心理面も解説されています。
あくまで教祖視点、つまり”信者の気持ち”を客観的に見たものですのでヒトを動かしたいと思っている方に参考になるかもしれません。
読んで思った本書のポイント
1, 過激な要点(チェックポイント)と語り方
教祖とはどういった職なのか?
本書では大前提として次のように述べています。
(前略)教祖は人をハッピーにするお仕事なのです。教祖というと、どうしてもうさんくさいイメージが付きまといますよね?人を洗脳し、お金を巻き上げ、思うようにこき使う。宗教なんかにハマってしまうと不幸になってしまう。―とんでもありません!事実はその逆です。教祖は人をハッピーにする素敵なお仕事なのです!
筑摩書房 2009/11/1 第一刷発行 完全教祖マニュアル 架神恭介(著)、辰巳一世(著) 13-14P
人をハッピーにする仕事だからこそ(信者から)尊敬を得られ、寄付などが集まり(結果として)お金も手に入る。
つまり冒頭で述べたように『名声や富が手に入る』という事に繋がるのです。
本書ではこの『ハッピー』を与えるための手法が”マニュアル”として述べられており、各章末にはチェックポイントとしてまとめられています。
ですがこのチェックポイント、字面だけでは『何を言っているんだ?』と考えてしまう項目もあります。
例えば…
- 教えは反社会的か?(第1章)
- 民衆の不安は煽ったか?(第3章)
- 民衆に救いは用意したか?(第3章)
- 異常な振る舞いをしているか?(第3章)
- 異端は追放したか?(第6章)
- 免罪符は売れているか?(第7章)
等といったものでしょうか。
(あくまで強烈な字面なものをピックアップしただけですので、勿論他にはまともな(宗教っぽい)ものもあります)
これだけでは『新興宗教はやっぱり怪しい、というか危ない団体では?というかどこにハッピーが?』と思うかもしれません。
しかし、この一見すると不穏な項目も、きちんと信者にハッピーを与える方法に繋がっているのです(後述)。
更に要点(チェックポイント)だけでなく、語られる内容も所々過激なものが含まれます。
過激と言っても特定の宗教や団体、個人を貶すものでは無く、『どこかから怒られそうな内容』といった感じです。
例えば『宗教の存在意義は何なのか』『宗教において神の存在する”意味”は?』『奇跡は弟子や後世が勝手に作ってくれる』等々。
こういった内容を時には他宗教を引き合いに出し、時には論理的に解説していくのですが、この際の”著者の語り方”が本書の特徴の一つでしょう。
普段目にしない、また問う事もし難い、タブー感がある点をスパッと切るように、分かり易く述べていくので非常に読みやすいのです。
2, 思わず納得”してしまう”根拠
前項で例に挙げたチェックポイントは一見すると『人をハッピーにする』事には繋がらないと思うでしょう。
というよりもそんな内容を実行している団体は”社会不安を煽り、混乱させる悪しき団体”にしか見えないかもしれません。
しかし、そんな項目も理由を知れば納得”してしまう”のが本書の特徴の一つです。
例えば『教えは反社会的か』というチェックポイント。
本書によれば『反社会的な教え』は教祖を名乗るのに必要な『信者(自分の教え・言葉を信じて従う人)』を獲得する為に必要なのです。
この理論をざっくり順を追って説明すると…
- 教祖というのは本書曰く『人(信者)をハッピーにする職』
- “ハッピーにする”という事は、逆に言えば現時点では”アンハッピー”な人がターゲット
- では現代社会でアンハッピーな人とは?
- (本書曰く)現代社会の価値観から見れば”負け組”とされ、幸せになれていない人
- 何故負け組なのか、それは現代の価値観に合っていないから
- なので現代社会とは違う価値観=反社会的な価値観(教え)を用意して幸せ(ハッピー)にする
という事になります。
こういった『筋道立てて考える』という論理的な説明だけでも納得できる部分はあると思います。
ですが、本書では”あらゆる要点”で論理的な説明を行うだけではなく、既存宗教での実例も挙げる事でその説得力を上げています。
というのも現代では有名な宗教も発足当時は全て『新興宗教』ですので、その成り立ち等は今でも通じる点が多いのです。
例えば『反社会的な教え』に関して本書では次のように述べて、更にキリスト教の実例を挙げています。
現に大ブレイクした宗教を見てみると、どれもこれも反社会的な宗教ばかりです。イスラム教しかり、儒教しかり、仏教しかり。どれも最初はやべえカルト宗教でした。しかし、その中でも最もヤバいカルトはキリスト教でしょう。イエスの反社会性は只事ではありません。
筑摩書房 2009/11/1 第一刷発行 完全教祖マニュアル 架神恭介(著)、辰巳一世(著) 34-35P
そもそも新興宗教はその社会が抱える闇を発端にして興ることが多いらしく、キリスト教の場合は『ユダヤ教の教義』に疑問を持ったイエスがユダヤ教から分かれ、興した宗教になります。
では、イエスが疑問を持った教義とは何なのかですが、その例としては次のようなものです。
- 徴税人などの穢れた職業と交わるな
- 安息日は休むものなので病人も治療するな
イエスが存命だった時代・地域ではユダヤ教が広く信仰されていたので、その教義が『一般的な価値観』になります。
よって現代社会で言えば『職業差別』に当たる為おかしいと感じるかもしれませんが、この教義を守ることは社会としては普通なのです。
しかしイエスは徴税人などと食卓を囲み、安息日にも病人を治療するという『反社会的な行動』を取ります。
こうする事で当時の社会的弱者(アンハッピーな人々)の支持を得て、キリスト教が興るのです。
つまり『反社会的な行動を容認する教義はアンハッピーな人をハッピーにするには必要』という結論になります。
一見すると荒唐無稽に見える事柄を軽い言葉で説明しつつ、言っている事は確かに納得できる。
しかも有名な宗教ですらその”荒唐無稽な事”をやっているので、更に納得してしまう・説得力に深みが出る。
あまり馴染みが無く、深く知らない”宗教”という分野である為、挙げられる内容は余計に荒唐無稽に見えるのかもしれません。
しかし、それを差し引いても“項目のインパクト”と”語られる説明の説得力”の温度差は非常に面白く、これも本書の魅力だと思います。
3, 日本で教祖を目指す
本書は一応マニュアルなので『現代日本でも新興宗教の教祖になれる』と断言しています。
新興宗教に対してアレルギーとも言える程、忌避感がありそうな現代日本人を信者にできるものなのか?
そのカギは『なんとなくな無信仰』にあると本書では述べています。
また多くの日本人は夏は墓参り、秋はハロウィーン、冬はクリスマスや初詣と宗教的に無節操です。
尚、この様な無信仰さ・無節操さは明治~第二次世界大戦前後の出来事で方向づけられていると本書では述べています。
(というのも明治時代からの政策で『信仰の自由はあるけど天皇崇拝が普通』といったふんわりとした感覚が出来上がり、二次大戦で敗戦した際に『天皇崇拝』の部分がすっぽり抜け落ちた結果『なんとなく無信仰』が形作られたようなのです)
無信仰で、宗教的に無節操ならば尚更特定宗教、その中でも新興宗教には靡きにくいのでは?と思うかも知れません。
しかし本書では逆に『無信仰であるが故に宗教に対して無知』なので『付け入るスキがある』と述べています。
また意識的ではないにしろ日本人は所々で宗教的な要素に接している点も重要である、としています。
この『宗教的な要素』とはどういった事かというと夏場の怪談やオカルトな話等です。
怪談でよく聞く『霊魂』などは宗教的な要素と言えるでしょうが、日本人は無宗教である為にこういったものを『表現するのに適切な言葉が思いつきにくい』と述べています。
なので意識的ではないにしろ仏教や儒教的な『仏様』や『先祖の魂』といった『分かり易い形に置き換える』事で収まりが良い形にして自身を納得させるのです。
この時に『すんなりと納得できる説明・教え』を与える事が出来れば入信する切っ掛けになると本書では述べています。
まとめ
本書は取っ付きにくい『宗教』、その中でも新興宗教という如何にも怪しい・胡散臭いイメージが付きまとう分野を扱った1冊です。
しかも『あなたも教祖になれる』というまず耳にすることが無い謳い文句も付いて来ます。
その中身は一見すると突飛で過激な要点に目が捕らわれがちですが、本書の面白さそれだけではありません。
軽い語り口ながらもしっかりと筋道立てられた論理的な説明と既存宗教の実例。
これらが入り乱れた、タイトルからは想像しにくい”まともな内容”が本書の魅力であり最大の特徴だと思います。
尚、読んだ後は『世にある新興宗教が何故そんな行動を信者にとらせているのか』や『何故信者はそんな事を進んでするのか』なども理解できるようになるハズです。
タイトルはネタにしか見えませんが、宗教に興味がある方だけでなく無い方でも楽しめる事間違いなしの1冊です。
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