集団の心理とは、それを動かすには【群衆心理】(5冊目)

今回ご紹介する書籍はこちら

『群衆心理』
ギュスターヴ・ル・ボン(著)、桜井 成夫 (訳)
講談社 1993/9/10発行

本書を特にオススメしたい人

  • 個々人ではなく『集団の心理』に興味がある方
  • 選挙や政治に興味がある方
  • 演説やスピーチに興味がある方
  • 歴史上の指導者に興味がある方
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目次

はじめに(本書の紹介)

一人でいる場合と集団でいる場合、自分の行動が変わっていると思ったことはありますか?

一人ではしない様なことを集団の中では戸惑い無くやってしまったことはありませんか?

日々目にするニュースで『多くの人が集まって何故そんなことをしたのか』と疑問に思うことはありませんか?

とある人を見て『何故そこまで支持を集められたのか』疑問に思ったことは?



本書の原本は今から100年以上前の1895年にフランスで発行されたものです。

当時のフランスはフランス革命(1789~1799年)により王政が崩壊、その後共和制を経てナポレオンによる帝政、ナポレオン失脚後は王政や共和制が入り乱れ、政治機構が激しく移り変わった時代でした。

この時代において統治者を挿げ替えた最大要因は群衆であり、本書では人が集団(群衆)となった際の性質の変化、それが何に影響されるのかなどを考察しています。

その内容は現代でも通用するどころか、むしろ当てはまるよう事ばかりであり、群衆になることで人はどう変わるのかを客観的に再確認させてくれます。

また逆に捉えるならば、群衆の性質を把握することが出来れば『群衆を誘導する』ことすら可能となるでしょう。

本書は社会心理学や歴史に興味が無い方でも、是非一読して頂きたい名著であることは間違いありません。

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読んで思った本書のポイント

1, 本書における『群衆』とは

『群衆』とは『一か所に集まった人の集団のこと』を示す言葉です。

しかし本書では心理学上の『群衆』は上記のような一般的な意味だけではなく、次のような性質も備えるとしています。

ある一定の状況において、かつこのような状況においてのみ、人間の集団は、それを構成する各個人の性質とは非常に異なる新たな性質を具える。すなわち、意識的な個性が消えうせて、あらゆる個人の感情や観念が、同一の方向に向けられるのである。

群衆心理 ギュスターヴ・ル・ボン(著)、桜井 成夫 (訳)  26P

このような状態になった群衆のことを『心理的群衆』と本書では呼んでいます。

また心理的群衆になる為には何らかの刺激を受けることが必要であり、その時初めてその集団の感情などが一方向に向けられ、心理的群衆になるとしています。

ポイントとしてはあくまで『刺激』を受けることが発端である為、一つの場所に個人が集まる必要は無い、としている点です。

つまり少人数であっても、離れた場所にいる個人同士であっても何らかの刺激により同じ意見を有して、一方向に観念が統一された際には『心理的群衆』へ変化するのです。



原本が発行された当時であれば新聞や伝聞などでそういった『刺激(情報)』が広まり、心理的群衆が形成されたと思われます。

しかし、現代ではSNSの普及により、誰でも自分の考えをリアルタイムで、世界中に発信することが出来ます。

更に発信の匿名性によるオブラートに包まないストレートな意見・考えは、他者の賛同もしくは否定感情を強く刺激することでしょう。

そう考えると本書原本が発行された時代よりも、現代は『心理的群衆』が生まれやすい時代なのでしょう。

2, 群衆の性質

本書では心理的群衆の性質ついて解説していますが、幾つかピックアップしますと…

  1. 衝動的で、動揺しやすい
  2. 暗示を受けやすい
  3. 感情が誇張的で、単純

といったものが挙げられています。


これら性質が生まれる要因の一つは『個人が集団に取り込まれると、一種の不可抗力的な力を感じるようになる』事だと本書では述べられています。

これは同調圧力だけではなく、リスキーシフトのような『個人では抑えていた行動』なども含むと思われます。

周りがやっているから大丈夫、といった考えで一人では躊躇する行動をやってしまった覚えは誰にでもあると思います。



群衆に与えられる刺激は多種多様に変化しますが、刺激により群衆の動きが変わるならば、それは非常に移ろいやすい≒動揺しやすく見えるのではないでしょうか。

また、群衆の中の誰かが突飛な行動をした際に、それに合わせて他の群衆が同じような動きをした場合、それは衝動的な動きに見えるのではないでしょうか。




また、他の要因として『群衆は何かに期待して集中している』といったことが挙げられています。

ユリウス・カエサルは『多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない』といった内容の言葉を残していますが、まさにこれが当てはまるでしょう。

群衆は何らかの刺激により『一方向に観念が向いた状態』である為、目的に沿わない情報の影響は小さくなり、逆に好ましい情報はことさら大きく感じると考えられます。

これにより『好ましい情報』のみを取捨選択していったならば、例えそれが誤りであったとしても信じてしまい、最終的には暗示にかかったようにそれ以外の情報は考慮にすら値しない状態になってしまうのではないでしょうか。



本書では上記の他にも幾つかの群衆の性質や、それを生む要因についても述べられています。

本書を手に取る機会があれば『一般市民集団が話題になった』ニュースを念頭において読んでみると、述べられている『性質』や『要因』が想像しやすいかと思います。

3, 群衆の意見を左右するもの

本書では群衆の意見や観念を左右し、導く多くの要素を述べていますが、幾つかピックアップすると…

  1. 思想
  2. 推理力
  3. 想像力

などを挙げています。

思想と一口に言っても、大まかに2つに分けられるとしており、1つは『その時々で起こる偶発的な思想』であり、もう一方は民主主義や社会主義などの『強固な思想』としています。

前者は何か刺激を受けた際に起こる『情報の捉え方』と考えることが出来ると思います。

しかし、何れの場合であっても群衆に支配的な影響力を持つには『単純な形』を取り、且つ『強烈な心象』が必要であると述べられています。



推理に関しては『一つの事柄と似ている事柄を連想、結び付けて考える』という事であり、一つの例が他の事象全てに当てはまる、と考えてしまうと述べています。

これはニュースで報道されたとある不祥事や事件を見た際に、その会社や同業界全体も悪い印象で捉えてしまう、と考えれば分かり易いのではないでしょうか。


また想像力は『100の小事件よりも1の大事件の方が群衆を強く動かす』といった内容の言葉でまとめられており、且つ群衆の想像力を働かすには『事柄を大雑把に表すことが重要』としています。



これら3要素のみに絞ってをまとめると…

1つの事柄を大々的に、且つ想像の余地を残すように伝えることで、群衆は『想像』『推理』し一つの単純な『思想』に行きつく

ということになるのでしょう。

4, 群衆の指導者

本書では群衆だけではなくその指導者についても解説及び考察を行っています。

その中でも指導者の『行動手段』について解説した部分が、この項目で最も読んで頂きたい点になります。

本書ではこの『行動手段』について以下のように述べています。

群衆の精神に、思想や信念―例えば、近代の社会理論のような―を沁みこませる場合、指導者たちの用いる方法は、種々様々である。指導者たちは、主として、次の三つの手段にたよる。すなわち、断言と反覆と感染である。これらの作用は、かなり緩慢ではあるが、その効果には、永続性がある。

群衆心理 ギュスターヴ・ル・ボン(著)、桜井 成夫 (訳)  160P

事実、皇帝まで上り詰めたナポレオンは『真実の修辞形式はただ一つ、反覆ということがあるのみ』といったそうです。


主張を簡潔に、単純な事柄にまとめ断言し、それを絶えず反覆することで聞いた人々はその主張を記憶していくことでしょう。

こうしてある一つの思想、信念のようなものが刻まれた場合、その人々はこれまでご紹介した群衆の性質などから『心理的群衆』の一歩手前になっていることが想像できます。

というのも、そこに何か新たな刺激、とりわけ刻み込まれた思想に関係した情報が入り、推理と想像を働かせた結果『同じ考えの人がいる』と認識したならば心理的群衆に変貌していくと考えられないでしょうか?

特に現代はSNSの発達により匿名性が保たれたまま、リアルタイムで、誰でも情報を発信することが出来ます。

一人が賛同すれば、それと同じ考えを持った人々は次々に賛同し、瞬く間に『心理的群衆』を形成していくのではないでしょうか。



選挙や政治において短期間で多大な支持を集める方々を想像してみて下さい。

全員がそうだとは言えませんが、多くの方は『簡潔な主張を断言、反覆』していないでしょうか?

それがSNSなどで瞬く間に広く浸透していないでしょうか?

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まとめ

本書では心理的群衆の備える性質や、その意見を左右する種々の要素に加え、群衆の指導者が用いる方法などについて解説・考察しています。

原本自体は100年以上前に発行されたものですが、実際に読んでみるとその内容は現代でも当てはまることが非常に多いことが分かります。

文体は少々読み難いものの、読む際に『群衆がメインとなった出来事、ニュース』など各項目に沿った出来事を想像することで書かれている内容は格段にイメージし易くなるのではないでしょうか。

本書のジャンルとしては社会心理学に入りそうですが、この分野に興味が無い方にも是非読んで頂きたい名著です。





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