雑学・用語解説2(暗号解読(下))

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目次

  1. 双方向関数と一方向関数
    ex, モジュラー算術
  2. 2重スリット実験
    A, コペンハーゲン解釈
    B, 多世界解釈
  3. 表音文字と表意文字
  4. トマス・ヤング
  5. ジョゼフ・フーリエ
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双方向関数と一方向関数

『双方向関数』は計算した結果から何が使われたかを簡単に求めることが出来る関数。

対して『一方向関数』は(厳密な定義はあるようですが)その結果だけを見た場合、何が使われたかを求めることが非常に難しい関数。

双方向関数は可逆的で、一方向関数は非可逆的とも言えます。

本書では以下をイメージ例として挙げています。

双方向関数:普通の掛け算
(『2を掛けた』と言われて36が出ていれば、18が使われたと分かる)

一方向関数:絵の具を混ぜる行為
(『2種類の色を混ぜた』と言われ緑色を見せられても、元の色に分けることはできず、また『何の色を混ぜたか』も分からない)

なお、本書で紹介している対称鍵は『双方向関数』、非対称鍵は『一方向関数』と言えるでしょう。

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ex, モジュラー算術

ざっくり言うと『時計算』のことで、規定した数(mod X)で時計の針が1周するように計算する方法。合同算術とも。

なお、時計をイメージするならば文字盤の始まりを『0』として考えると良いでしょう。
(mod12ならば、0~11の数字盤と考える)

例えば『9+8』を行う場合…

・普通の足し算:9+8=17
・モジュラー算術 mod12:9+8=5
・モジュラー算術 mod5:9+8=2

と、四則計算とは全く別の解答が出てくるのがモジュラー算術の特徴となります。

モジュラー算術は日常でも何気なく使っている方法ですが、条件次第では一方向関数に近い性質を持ち始めます。

例えば、使う数を大きくするだけですが『mod349として、8のx乗=3の時のxの値』としただけでもxの値がすぐに出て来なくなりますね。

このような特性を持つモジュラー算術は、現代でも暗号アルゴリズムの開発に利用されているそうです。

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2重スリット実験

量子力学における実験の一つ。

また得られた解釈は量子コンピューターの元となる考え方でもあります。

この実験は粒子と波動の2重性を示す実験として有名なもので、古くは1800年代のトマス・ヤングの実験までさかのぼれます。

では、どのような実験かざっくりと説明していきます。

まず、『光源』と『光により色が変わるスクリーン』の間に『スリットを入れた衝立』を設置します。

光源から光を出すとスリットを通り、背後のスクリーンに光が当たり、当たったところは色が変わりますね。

上図のようにスリットが2つの場合、スクリーンにはどのような模様が出てくるでしょうか?

スリットが2つなので下図のように2つの線が浮かび上がると思うかもしれませんが…

正解は、2つの線では無く複数の線(縞模様)が浮かび上がるのです。

この実験に関してトマス・ヤングは『光の波動説』というものを唱えました。

これ簡単にまとめると『縞模様が出来上がるのは、光が波の性質も持っているからで、波がぶつかった所では強い波が出来上がるのと同じである』といった説になります。

波はスリットなど狭い所に入り込むと『回折』という現象を起こし、そのスリットからまた波を出し始めます(下図 青〇)。

また、波は『干渉』という現象を起こし、波同士が重なった所では強くなったり弱くなったりします。
(同じ波長であれば重なると大きくなり、正反対の波長では打ち消し合うイメージ)

この『回折』と『干渉』により、光の波は部分的には強くなるのでスクリーンには縞模様(干渉で強くなった波部分)現れる、という事ですね。

ヤングの実験は1800年代に行われた実験ですが、これは『大量の光=大量の粒子が波を形成していた』と考えられた為、近年電子を1個ずつランダムに打ち出す実験が改めて行われました。

今度は電子1個ずつなので、スリット通りの模様が出ると思われましたが、その結果は『ヤングの実験と同じ縞模様』となったのです。

この電子実験の結果からは『電子は粒であり波である』といった、ちょっと意味が分からない結論が導き出されました。

そんなわけがない、という事で衝立の裏に観測機器を設置して電子がどう通っているかを見たところ…

何と今度はスリットの通りに模様が浮かび上がったのです。

この結果から『電子を用いた2重スリット実験の解釈』には複数の説が唱えられていますが、取り合えず次の2つを説明します。

A, コペンハーゲン解釈(重ね合わせ解釈)

この説を箇条書きで表すと…

  • この実験で明らかなことは次の2つだけである
    1, 電子が1個ずつ出たこと
    2, スクリーンに電子が当たったこと
  • 途中のスリットを通過する際電子は次の2つの状態が『重なっている=同じ確率で存在している』
    ・右のスリットを通過した電子
    ・左のスリットを通過した電子
  • 観測することで『どちらかのケースに確率が収束する=どちらかのスリットを通過した』という結果が得られる
  • 逆に言えば観測しない限りどちらも存在しているので縞模様ができる

考え方としては『シュレディンガーの猫』が近い説になりますね。

B, 多世界解釈

こちらの説を箇条書きで表すと…

  • 打ち出された電子は次の2つの選択肢(確率)がある
    ・右のスリットを通過する
    ・左のスリットを通過する
  • この時、世界は2つの可能性に分岐する
  • 実験で観測されたものはこの内のどちらかの世界であるが、もう一方の世界が無くなったわけでは無い
  • 観測されない限り世界が選ばれないので、2重スリット実験では2つの世界が干渉しあい縞模様ができる

SFちっくな解釈ですが、面白い説ではないでしょうか。

さて、長々と2重スリット実験について説明しましたが、これが量子コンピューターにどう繋がるか。

これらの説は『解釈はどうであれ、複数の可能性が同時に存在している』と言い換えることが出来ます。

今までのコンピューターは可能性を一つ一つ処理していくものですが、量子コンピューターはこれらの説を応用して複数の可能性を同時並行で実行・処理できるものなのです。

一つ一つ解決するより、同時に行った方が早いのは当たり前ですね。

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表音文字と表意文字

表音文字は『それぞれが何らかの音を表している』文字であり、多くは複数が決まった順序で並ぶことで意味を成す文字のこと。

対して表意文字は『一つ一つの文字自体が意味を表す』文字のこと。

表音文字の例としてはアルファベットが代表的でしょうか。

表意文字の例としてはアラビア数字が想像しやすいかと思われます。

というのもアラビア数字は様々な言語で、色々な読み方がありますが、どこの言語圏でも『1』は『1』を表していることから表意文字と言えます。

これら表音・表意の区分けは古代文字解読に大きく影響してきます。

古代文字をぱっと見て絵文字(表意文字)に見えた場合、正確な解釈は既に失われているので『太陽っぽい形だから、それっぽい訳をしよう』といった事になります。

ですが『それ』が表音文字だった場合、一文字では意味をなさない為、最終的な訳は大きく間違ったものとなり、ひいてはその文字を使っていた文明が誤った解釈で知られてしまうのです。

イメージとしては古文のテストで『意味の分からない単語をそれっぽく訳したら正解とは全く違う答えになった』といったものでしょうか。

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トマス・ヤング

トマス・ヤング(Thomas Young)、1773~1829年、イギリスの物理学者。

その功績は『万能の天才』と言えるほど幅広く、以下ののようなものがあります。

  • 医学
    ・色の知覚に関する研究
    (眼には3種の受容器官があり、それぞれ3原色の内1色を知覚することの立証)
    ・眼の焦点調節原理の推察
    (眼球全体を歪めなくとも内部のレンズだけで焦点調節が出来る、という仮説)
  • 光学
    ・光の波動説
  • 物理学
    ・『エネルギー』という概念を初めて導入・定義
    ・弾性に関する研究から『ヤング率』を発案・導入
  • ロゼッタストーン(古代文字ヒエログリフ)の解読

ヤングはヒエログリフの解読において『ループに囲まれた箇所(カルトゥーシュと呼ばれる)』は重要な単語であり、ファラオの名前であろうという仮説から『ヒエログリフに音を当てはめる』という表音文字としての解読を試みました。

彼は最後までヒエログリフを解読せずにほっぽり出してしまいますが、当てはめた音節は殆ど正しかったようです。
(諦めたのではなく、彼が心酔していた説が表意文字派だったので解読を辞めた、といった事情だったようです)

尚、この偉業の一歩を彼は『2~3時間の気晴らし』と言ったそうです。頭が良すぎですね。

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ジョゼフ・フーリエ

ジャン・バティスト・ジョゼフ・フーリエ男爵(Jean Baptiste Joseph Fourier)、1768~1830年、フランスの物理学者、数学者。

固体内での熱伝導に関する研究から『熱伝導方程式(フーリエの方程式)』を、更にこれを解くために『フーリエ解析』といった手法まで作り出しています。

フーリエ解析をざっくり説明すると『重なりあった異なる周波数を周波数毎に分離する方法』となります。

身近な応用例では音楽のデータ化でしょうか。

この場合元データを圧縮して録音しますが、録音時には人間の耳には聞こえない高周波をフーリエ解析を使って分離・削除しているのです。


さて、物理学者のフーリエとヒエログリフの関係ですが、これにはフランス皇帝ナポレオンが関係してきます。

1798年のエジプト遠征に随行した学者の中にフーリエも含まれており、到着後にフーリエが行った活動の中にはロゼッタストーンの発掘があるのです。

発掘後はフランスへ持ち帰りしばらく彼が管理していたらしいのですが、その際にまだ少年だったシャンポリオンにロゼッタストーンを見せたのです。

もし、フーリエがロゼッタストーンを見せなかったならばシャンポリオンはヒエログリフにそこまで興味を持たなかったかもしれず、今でもヒエログリフは表意文字として扱われていたかもしれません。

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