雑学・用語解説3(100の思考実験: あなたはどこまで考えられるか)
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目次
1. 思考実験
実際に実験を行わず、頭の中で考える実験のこと。
その範囲は『実際に観察された問題に理論的に可能で、理想的な条件を設定し考察する実験』や『現実的ではない問題に仮の条件を設定して考察する実験』など多岐にわたります。
前者は科学的な思考実験に多く、後者は哲学的な思考実験に多い(と思われる)。
例えば、何らかの実験で得られた結果がどうにも説明がつかない場合、色々な条件を設定して考察することは科学的な思考実験と言えるでしょう。
対して『スワンプマン』のような現実でありえなさそうな問題を考える場合は哲学的な思考実験と言えるのではないでしょうか。
1-2. スワンプマン(泥男)
ある男がハイキングに出かけたが、沼の近くで雷に打たれて亡くなってしまう。
その直後沼に別の雷が落ち、沼の泥が化学変化を起こした結果、亡くなった男と原子レベルで同じ『男』を生み出してしまう。
生み出された『男』は亡くなった男の家に帰り、家族と話し、翌朝には仕事へ行き、生活を続ける…
といった内容の『同一性』を問う思考実験の一つ。
雷に打たれて亡くなった男と泥から生まれた『男』は同一人物と言えるのか。
泥から生まれた男は亡くなった男と原子レベルで同じではありますが、それまで生きてきた『歴史』を持っていない為同一ではないかもしれません。
しかし顔や体形、記憶などは亡くなった男と同じと考えれば同一の存在といえるかもしれません。
2. テセウスの船
テセウスが用いた船があるところに保存されている。
朽ちた部分を新たな木材に置き換え補修を行っていたが、遂に元の船に使われていた木材は無くなってしまった(全て置き換わってしまった)。
この場合、今保存されている船は『テセウスの船』と言えるのだろうか?
とある物体の全構成物が徐々に、遂には全て置き換わった場合それは元と同一であるといえるのか、という『同一性』を問う思考実験の一つ。
また、置き換えられた部品を集め船を作ったならばどちらが『テセウスの船』なのか、という問題にも派生します。
いずれにしろ何に焦点を当てるかで意見が異なってくるのは間違いないでしょう。
人間も構成されるたんぱく質は日々置き換わっていることから、テセウスの船と同じ思考実験が出来るかもしれません。
2-2. 四原因説
アリストテレスが論じた自然学の現象については4つの要素を論じる必要がある、という説のこと。
ざっくりいうと『どんなものでも4つの要素が集まって出来ているので、それらを考える必要がある』といった内容。
その4つの要素は次の通り。
- 質量因:存在するモノの物質的なもの=材料や素材
- 形相因:それが何であるかを示す構造や形状
- 作用因(起動因):物事の存在、変化を引き起こしたもの
- 目的因:その物事が存在している目的
例えば、10円玉が手元にあった場合、四原因説に分類すると…
- 質量因:素材は『銅(青銅)』である
- 形相因:直径23.5㎜の円形で、表には平等院鳳凰堂が刻まれている
- 作用因:10円玉は造幣局で作られている
- 目的因:貨幣として使用される
といったところになるのではないでしょうか。
なお、この四原因説をテセウスの船に用いると、主に変わったのは『質量因』になります。
この質量因に焦点を当てるのか、それとも船としての形相因(形状)や目的因に当てるのか?
そもそも『テセウスの船』という構造物は『何を以ってテセウスの船と呼ばれる』のでしょうか?
3. アキレスと亀
あるところにアキレスと亀が居て競争を行うことになった。
亀は非常に遅いのでハンデとしてアキレスよりも先の位置(地点A)からスタートすることになった。
競争が始まりアキレスが地点Aに着く頃には亀は少し先(地点B)にいる。
アキレスが地点Bに着くころには亀は更に少し先(地点C)に…
といった内容の思考実験、というよりもパラドックスのこと。
アキレスは俊足の英雄ですが、この論理ではいつまで経っても亀に追いつくことはできません。
しかし現実ではアキレスほどの俊足を持っていない私でも亀に追いつき、追い越すことが出来るでしょう。
実際、この問題は『無限』と『有限』の違いにより説明できるのです。
ざっくり説明すると、この状況は『アキレスが亀に追いつく前の時間』を無限回分割した状況になります。
1+0.1+0.01+…を行っても永久に2にならない様に、このパラドックスは亀に追いつく前までしか論じていません。
その為、実際は亀に追いつく瞬間にはこのパラドックスをクリアしていることになりますね。
4. 水槽の中の脳
今日、あなたは何をしましたか?
仕事ですか?それとも旅行?はたまた買い物でしょうか?
どんなことであってもあなたが今日した事は『間違いなく自身の体験』と思っているでしょう。
ですが、それは本当にそうなのでしょうか。
仕事も旅行も買い物も、全ては『水槽に浮かんだ脳が見ている夢』ではないという証拠はどこにありますか?
といった内容の思考実験の一つ。
今体験している世界が本当に存在するのか、全ては培養液に浸された脳が見ている夢なのではないか、という問いから『実在性』を問う実験になります。
問いかける文面は異なりますが『胡蝶の夢』も同じような内容と言えるでしょう。
また、この思考実験自体は映画『マトリックス』の構想にもなっている点からも有名かもしれません。
またこの思考実験では『夢から覚めた』としても、その世界が『夢から覚めた夢』の可能性があることから、結局の所何が現実かは分からないのかもしれません。